4、玄関を叩く音(教育業 静岡県 38 山下幸之助様)

 

夏休みの部活の合宿の指導の為に、毎年とある湖のほとりの合宿所を訪れていました。

 

ある年、どうしてもいつもの合宿所の予約がいっぱいで、利用したことの無い古めの宿を使わせていただくことになりました。

 

私は古めかしい建物が好きなので普段は古さを特に嫌だと思うことは無いのですが、この時だけは違いました。

 

あてがわれたその日泊まる部屋の扉を開けた途端、湿った重苦しいような感覚を覚えました。

 

6畳ぐらいの畳の部屋に押し入れがあるだけの簡易的なその部屋は、部屋自体は使いやすそうなのに、どういうわけか入った瞬間に吐き気がしました。なにこれ・・・と思わずつぶやいてしまい、同室になった方と荷物を置いてすぐに部屋を出ました。

 

そしてその晩。練習後の打ち上げでその隣の部屋に講師陣で集まって飲むことになりました。

 

昔話に花を咲かせて楽しく笑い、和やかに時間が過ぎていきました。

 

まだ夜の22時。

 

でも部屋の時計は0時で止まっていました。

 

まだ夜は長い。

 

柱に寄りかかりながらほろ酔い気分で仲間たちを眺めて話を聞いていました。

 

ふと、もうこんな時間!と、一人がスマートフォンを見てつぶやくと、ぼちぼち寝ようか、という声が聞こえたので、じゃあ部屋に戻るか、と言って私は寄りかかっていた柱から身体を起こしました。

 

その瞬間、みんなが私のほうを見て叫び声をあげました。

 

私は何が起きているのか分からず戸惑って何!?と聞くのですがパニックのみんなはその場で固まってしまっていて誰も答えません。

 

みんなが見ている私の頭上を見渡してみても、そこには止まった時計があるはずでした。

 

2時を指して止まった時計がそこに。

 

あれ?さっき0時じゃなかったっけと首をかしげていると、仲間の一人が口を開きました。

 

今君が柱から離れた途端ものすごい勢いで時計の針が回ったんだよ!

 

なぁ、見たよな!

 

それに頷くみんな。

 

何かのドッキリかと思ったけど、みんなの様子からそれが冗談ではないことは一目瞭然でした。

 

怖いからこの部屋で寝るの嫌だ、とその部屋に割り当てられた人は別の部屋に寝ることにして、それぞれの部屋で眠りにつきました。

 

そして翌朝、ある一人の友人がその部屋に入り時計を外して持ってきました。

 

電池が入っていませんでした。

 

なんであんなことが起きたのか誰にも理解できないまま合宿は終わり、二度とそこに行くことはありませんでした。

 

5、フィギュアの怨念(パート 東京都 30 くるくる様)

 

乾徳山に登った時のことです。

 

その日、当初の予定では晴れだったのですが、登山道入り口についたころには曇りになってきました。

 

それでも問題ないだろうと登っていくと霧もだんだんと濃くなっていきます。

 

途中で変な物を見つけました。

 

アニメの女性キャラのフィギュアだと思うのですが、フィギュアの顔には写真から切り取った誰かの顔が貼り付けられていました。

 

しかし、その顔の部分は釘などの尖ったもので引っかかれたような傷があり判別できません。

 

気味が悪かったので、なるべく見ないようにして、先を急ぎました。

 

霧の濃さが更に増してきました。途中、誰にも会いません。

 

その時の私はまだ登山初心者の域を出ていなかったので、不安になり登頂はあきらめ下山することにしました。

 

来た道を戻ることになるので、またフィギュアがある場所に近づきます。

 

気にしないようそこを通り抜けようとしたとき、ガリガリガリガリ…と音がしました。

 

岩を金属でなぞるような音です。ガリガリガリと今度ははっきり聞こえました。

 

段々近づいてくるようです。

 

霧は濃さを増していますが、目を凝らして周囲を見回しました。

 

すると下山してきた道の方角に、白い霧に交じって黒い靄が蜃気楼のように揺らいでいました。

 

ガリガリという音とともに、その靄が段々と近づいてきます。

 

登山靴の足音やザックの揺れる音は一切聞こえません。

 

しかし、その靄は不快な音を立てて近づいてきます。

 

私は身の危険を感じ、下山の速度を速めました。

 

視界が悪く何度か転びながらも必死で駆け下りていきます。

 

途中誰にも会いませんでしたが、登山道入り口まで戻るとバス停と民家数軒見えてやっと一息つくことができたのでした。

 

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