美山村の遊女 作者:オレンジ水 40歳後半

 

私が大学生の頃、友達の一人が「山梨県の廃村に冬の肝試しに行こう」と言い、私達四人は遊び半分で行ってみることにしました。

 

場所は山梨県の山の中腹にある「美山村」という場所で、なんでも昔は栄えた村だったそうですが山の下に新道が出来てからはどんどん廃れていった村だそうです。

 

その村の中に大きな廃墟の旅館があり、そこが心霊スポットになっているという話でした。

 

さっそく車に乗り込んだ、私と加奈、裕一(ゆういち)、聡(さとし)でしたがなかなか場所がわからずだいぶ迷ってしまいました。

 

裕一の話によれば新道のトンネルの手前を右に登っていくと山の中腹に門が見えると言うのですが、その門はなかなか見つからず川沿いの細い道をひたすら走っていました。

 

もうだいぶ時間が経っていて夕方になっており外は薄暗くなっていました。

 

その時、聡が突然「あの門かな?なんか木で出来た古い門がある」と言い、私達が見るとだいぶ朽ち果てた門というより柵のような物が見えました。

 

私達はその前に車を止めると、四人で門を少し開け中に入って行きました。

 

村はだいぶ前に廃村になったのがよくわかるくらい草が生い茂っていて、どの家も古くだいぶ朽ちていました。

 

窓ガラスが割れている家もあれば、屋根瓦が落ちている家もあります。

 

鶏か牛を飼っていたような場所もあり、古井戸もありました。

 

私達がどんどん進んでいくと途中には大きな池か沼のような場所があり、だいぶ昔は田んぼだったのかもしれません。

 

そのまま私達が進んでいくと、一際大きな建物が見えました。

 

看板はボロボロですがかろうじて「旅館」という文字が見えます。

 

「ここが噂の旅館かあ」と裕一が言うと、加奈は「かなり雰囲気あるね、本当に入るの?」と言います。

 

私は「やめた方が良いんじゃない?」と言いましたが、「ここまで来てもうやめれないでしょ」と聡が言って、私達は入って行きました。

 

旅館はかなり古い和風の二階建ての大きな建物です。

 

あちこちのガラスは割れていて、中の障子もボロボロなのが見えました。

 

入り口の引き戸は建付けが悪くなっており、ギシギシ音を立て開きにくくなっており、裕一が無理矢理こじ開けました。

 

中はもちろん真っ暗。壁もボロボロで畳も埃をかぶっていました。

 

私達は一階から見ていくことにしました。

 

廊下を歩いていくと広い畳の部屋があり、宴会などをする大広間がありました。

 

窓ガラスが割れていて、風が入るたびにガラスがカタカタ音を立てていました。

 

その時です。

 

どこからか、ギシギシという音がしたのです。

 

私が、「誰か来た?」と言うと、誰も何も言いません。

 

でも私達は何かが入り口の引き戸を開けたような音を聞いたのです。

 

「気のせいかな」と加奈が言うと、今度はトコトコと音がし、音は入り口の方から聞こえました。

 

そういえば入り口の方に階段があったのです。音はまるで階段を上って行ったような感じでした。

 

私が「やっぱりここっておかしいよ。出ようか」と言ったのですが、裕一と聡は「まだ二階を見てないから」と言い、逆に楽しんでいる様子でした。

 

そして私達は二階に行くことにしたのです。

 

二階への階段は広いけど急で、私と加奈は手を繋いで上りました。

 

二階につくと、廊下がありと畳の部屋が七つありました。

 

畳は埃だらけ、雨漏りもするのか畳に大きなシミが見えます。

 

壁はやはりボロボロで、天井もボロボロでした。

 

廊下は床板が古くなっているせいか歩くたびにミシミシと音がします。

 

私達が一番奥の部屋に来ると、何かまた音がするのです。

 

ミシミシと、それはまるでだれかが廊下を歩いてくるような。

 

私達は急に怖くなり、「何か来るよね」と加奈が言うと、「う、うん」と聡も裕一も言います。

 

音はゆっくりと近づいてくるのです。

 

私と加奈がぎゅっと手を繋ぎ、私達は廊下の方を見ていました。

 

ゆっくり、ゆっくりと音が近づいてきて、やがて着物姿の女の人があらわれたのです。

 

髪はボサボサ、着物ははだけていて、遊郭の遊女のような姿です。

 

体はやせ細っていて、何か小さい声で言っているようですが聞こえません。

 

私達は一同で、「ぎゃぁああああああ!」と言うと、部屋の窓を開け、そこから一階の屋根へとおりたのです。

 

そして屋根の低くなっているところから地面に飛び降り、旅館から四人で必死に草を分けながら走ったのです。

 

ところが古い家々の間を走っていると、誰もいなかったはずなのにどの家にも人がいて窓から走っている私達を黙って見ているのです。

 

「な、なんで!人がこんなにいるなんて!!」と大騒ぎしながら、私達は車に着きました。

「早く、車開けて!」と叫び、裕一が「わかってる!!」と答えます。

 

私達は廃村の方から何かが追って来るのを感じ、「急いで!!」と言い、車に乗り込みました。

 

そして裕一が車のエンジンをかけて出発しようとすると、門のところに旅館にいた遊女の女の人がいるのです。

 

「は、はやく!!」っと私が叫び、急いで私達は山道を下って行ったのです。

 

山道には外灯はなく、すでに真っ暗になっていて私達は車のライトだけを頼りに降りて行きました。

 

トンネルの道まで来ると他の車が走っているのを見て私達は一安心したのです。

 

そして私達はすぐ近くのコンビニに車を止めて休憩することにしました。

 

廃村であったことを私達が話していると、レジのおばさんから「あんたたち、もしかして山の上に行ったの?」と聞かれ、廃村であったことを話しました。

 

おばさんは地元の人だそうで、昔は廃村が賑わっていたことや「遊女」がいたことを教えてくれました。

 

遊女はどこか貧しい家から売られてきた娘や中には遠くから売られてきた娘もいたそうです。

 

私達が見たのはその遊女だったのでしょうか。

 

そして窓から見ていたたくさんの人達はなんだったのでしょうか。

 

今回のことで私達は心霊スポットは危ないということがわかり、それからは遊び半分で行ったりすることはやめました。

 

このストーリーにした理由

私が山梨に行ったとき見た集落を思い出して書きました。
ただ、その集落は確かに住んでいる人が今はだいぶ少ないのですが、僅かに住んでる人はいるそうで廃村ではないそうです。
またその集落から見る「星空」が有名になりつつあって、星空観察に人が来るようになっているとのことでした。
なので、もしその集落が廃村になっていたらと想像して書きました。
そして遊女については実際に山梨の温泉街に昔いたと聞き、それを付け加えてみました。
コメントを残す

CAPTCHA


関連キーワード
小説の関連記事

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事